現在、自動車業界にはパラダイムシフトが起きています。自動車メーカーには、クラウドベースのワークフローや車載オペレーティングシステム(OS)などのより新しいアプローチやソリューションを活用した車載ソフトウェアをいち早く提供することが求められています。ユーザーは車両がよりCASE-コネクティッド(Connected)、自動化(Autonomous)、シェアリング(Shared)、電動化(Electric)―となることを求めています。マッキンゼーの報告書によれば、2030年に販売される新車のうち95%がコネクティッドの車両となり、64%のユーザーが、より優れた自動運転機能を求めて自動車メーカーを乗り換えるとしています。また、EU法では2035年以降に販売されるすべての新車にゼロエミッションが義務づけられ、米国のユーザーの3人に2人が、今後2年間でシェアモビリティの利用が増加すると予想しています。
ソフトウェア定義型自動車(SDV: Software-defined vehicle)への進化は自動車メーカーとサプライヤーがCASE固有の機能、例えばデジタルコックピット(車載インフォテインメント、安全ディスプレイ、車内モニタリング機能など)、ADAS/ADなどを構築しサポートするというパラダイムシフトです。SDVにより、自動車メーカーとサプライヤーは、ドライバーや同乗者のニーズに対応するために、車両の発売時やライフサイクル全体を通じてソフトウエアアップデートし、ユーザー中心の機能を構築し提供できるようになります。SDVは、ユーザーのロイヤルティと自動車メーカーの収益に新たな収益をもたらします。 クラウドネイティブなSDVは、効率的でスケーラブル、そしてセキュアな展開を可能にするだけでなく、車両オーナーや同乗者の共感を呼び起こす豊富な機能を備えています。しかしSDVには、コンプライアンスや認証といった解決されなければいけない課題もあります。
この記事では、エレクトロビットとAWS(Amazon Web Service)がどのように連携し、クルマの豊富な機能の開発と「Code to the Road」の展開を加速しているかを説明します。自動車メーカーがSDVのロードマップを実現するために、これらの進歩をどのように活用できるか見てみましょう。
ユーザーのニーズから提供までのバリューストリーム
ユーザーのニーズからその提供に至るまでのバリューストリームにおいてエレクトロビットとAWSのソリューションの機能について説明します。下図は、クルマのライフサイクル(コンセプト立ち上げから廃車となるまで)を通して、オーナーと同乗者がどのようにパーソナライズされた機能と性能を体験するかを表しています。コネクティッドカーと最新のEアーキテクチャは、SDVの統制を高め、高度にカスタマイズされた体験の開発と展開を可能にします。
喜びと感動を与える製品:
ユーザーの満足度とロイヤルティは、車内のさまざまなコンポーネントを統合したソフトウエアによる、進化したデジタルキャビン体験を通じて獲得、維持されます。これを可能にするには、自動車メーカーはソフトウェア開発と管理の方法を変革する必要があります。自動車メーカーは、自社のクルマでの体験をユニークなものにすることに注力し続けています。クルマのコネクティッド化に伴い、すでに販売されたクルマをアップデートして機能を追加し、ユーザーに合わせた体験を提供し続けることは新たな挑戦です。これを実現するには数々の課題が伴うでしょう。次の4つのパートでは、自動車メーカーがこの課題を、エレクトロビットとAWSの提携によってどのように克服できるかを説明します。
クラウドファーストなワークフロー:
SDVは組み込みソフトウエアに対する私たちの考えを変えようとしています。現在、設計、開発、ユニットテストのプロセスは、物理的なリグに依存しています。ここには2つの大きな問題があります:1) ECUの生産と研究開発が限られているため、設計と開発の開始が遅れ、2) Hardware-in-the-Loop(HiL)は導入コストが高く、複数のタイムゾーンを越えて協働するのはさらに難しいという問題です。
自動車メーカーが業界で競争優位を発揮するためには、より速く、より集中的でありながらもより機敏で、そして特定のツールを活用する、変革されたエンジニアリング文化が必要です。この実現には、「常時稼働」のクラウドインフラストラクチャを活用することができます。それは、グローバルに分散している自動車メーカーのチームが、より協力的に、24時間体制で働くことを可能にするからです。最も重要なエンドカスタマーバリューを迅速に提供するため、最新のワークフローには、仮想資産を活用してグローバルに分散したチームが「常時稼働」クラウドベースのアジャイル開発が含まれます。DevOps、テスト、分析、アップデートのクラウドファーストワークフローは広く受け入れられていくでしょう。エレクトロビットとAWSは、自動車メーカーのSDV実現をサポートするためにこの分野で連携してきました。詳細については後半の「シフトレフト」アプローチで説明します。
車載OS:
車載OSは、自動車のECUの複雑なネットワークをひとつのデバイスとして抽象化します。また、一つのデバイスとして管理、監督、アップグレードします。これにより、機能を開発する際には、より調和のとれたアプリケーションプログラミングインターフェース(API)を実現します。車載OSは、SDVの実現のための主要な要素の1つなのです。車載OSはクラウドファーストな開発と検証を加速します。ソフトウエアのサプライヤーは、この車載OSの重要な役割を理解しなければいけません。
エレクトロビットは、Classic AUTOSARおよびAduptive AUTOSARに基づく独自の包括的製品群、高性能コンピューティング用オープンソースOS(EB corbos Linux)、ハイパーバイザー、そしてセキュアで効率的な車載ネットワーク通信製品をラインナップしています。これらは仮想化され、クラウドで利用可能になりつつあります。
ソフトウエアライフサイクルの管理:
SDVへ向けた動きに伴い、ソフトウエアコードは車両のより多くの機能を定義することになります。ソースコードの行数は、車1台あたり1億行から、2030年には約3億行に増加すると予想されています。それに加えて自動車メーカーは、自動車の安全とセキュリティに関する厳しい要件に準拠する必要があります。 これらは、自動車メーカーのOTAアップグレードの頻度を高める後押しとなります。また、自動車メーカーは、セキュリティ問題を迅速に修正するためのソフトウェアパイプラインを開発するためのサポートが必要となります。
デジタルライフエクスペリエンス:
デジタルキャビンの体験は、自動車メーカーにとってエンドユーザーと関わる重要な機会です。エレクトロビットはIVIシステム設計と実装のリーディングカンパニーであり、複数のディスプレイとデバイスプロファイルを備えたシステム構築の最前線に位置しています。新しいEアーキテクチャパフォーマンスはIVIハードウエアとソフトウエアが一体となることで向上します。エレクトロビットは、既存のミドルウェアを補完するリファレンスIVIプラットフォームを開発しました。それはボードサポートパッケージ(BSP)をAndroid、QNX、AUTOSARなどの一般的なプラットフォームに接続します。
「シフトレフト」アプローチ
今日のクルマは1億行のコードを有しており、ライフサイクルを通してメンテナンスされなければいけません。自動車メーカーが全車種にわたってこのソフトウエアを開発し維持するために必要な工数とコストは、たとえばクラウドネイティブの開発やテストなど、最新のアプローチやツールセットを活用しなければ、途方もなく大きくなってしまうでしょう。
クラウドネイティブな開発とは、Eアーキテクチャと車載ハードウエアの仮想化です。これにより、ソフトウェアのプログラマーは、人間が操作する車両機能を大規模に設計、開発、テストできるようになります。仮想ECUをクラウドで利用すると、研究開発用ECUの物理的な不足を解消し、リアルタイムでグローバルにコラボレーションできるようにします。このような環境パリティにより、クラウドで開発、テストされたエレクトロビットのソフトウェアスタックベースのアプリケーションと同じものを車両に展開することができます。
スケールとはどのような意味でしょうか? クルマのEアーキテクチャーの鍵となるコンポーネントは仮想ECU、CAN(Controller Area Network)またはSOME/IP(Scalable service-Oriented MiddlewarE over IP)プロトコルベースの仮想ネットワークを介して、クラウド上に数分で仮想化することができます。世界中の開発者が協力し、設計、機能構築、テスト、展開をより迅速に、リアルタイムで行うことができます。これにより、複数のソフトウェアプログラマーチームが、並行して多数の車両モデルの作業をすることが可能になります。整備されたクラウドガバナンス構造があれば、ソフトウェアコードのカタログ化、再利用、拡張がより容易になります。加えて、テストデータや性能データはより簡単かつ安価に保存・検索することができます。AWSの何年にも渡るクラウドインフラストラクチャコストの最適化の実績は、更なるコスト効果的なソリューションの作成に利用されるようになるでしょう。
上図に斜線で消されたステップは、クラウドベースのSoftware-in-the-loop(SiL)テストにおけるシフトレフトに役立ちます。
エレクトロビットは、Adaptive AUTOSARの商用ソフトウェアの実装を初めて提供したサプライヤーのひとつです。その拡張性の高いソリューションにより、自動車メーカーは、容易に先進システムの開発ができるようになっています。
エレクトロビットの EB corbos Studioは、すでに実用化されているEB corbos AdaptiveCoreスタックとともに、将来の高性能コンピューティング(HPC)開発プロジェクトの中核をなすコンポーネントです。エレクトロビットの技術・製品とAWSのクラウド技術を組み合わせることで、より効率的で迅速なアプリケーション開発と容易なテストの実現が可能です。例えば、ARMアーキテクチャベースの車載ECUに実装する場合、ソフトウエアビルドはAWS Graviton ARM CPUベースのクラウドインスタンスでテストされており、コードの再コンパイルなしでターゲットECU上で動作します。EB corbos Hypervisorは、ひとつのクラウドコンピュートインスタンス上で複数の仮想ECUをテストすることができる一方、最新のEclipse Ankaiosコンテナオーケストレーターも、コンピュートインスタンスを効率的に利用することで、AUROSARアプリケーションのスケーリングに貢献しています。 クラウドに統合されたエレクトロビットの包括的な製品ポートフォリオは、これまでは不可能であったスケールの大きなテストを可能にします。
シフトレフトのアプローチは、迅速なアジリティを実現し、エンジニアリングのプロセスの変革を支援することができます。クラウドインフラストラクチャの柔軟性によって、世界中に分散したチームが24時間体制で作業し、最優先のアイテムを最速で提供することができます。このように、クラウドガバナンスを通じて頻繁なアップデートサイクルをより簡単に管理し、OTAソフトウェアアップデートサービスを向上することで、新機能をドライバーや乗員に提供することができます。
この記事では、SDVにおける車両へのソフトウェアの開発と実装について説明しましたが、この考え方は他のCASEアプリケーションにも適用できます。
総括
エレクトロビットは、AWSのサービスとインフラストラクチャを活用し、業界をリードするクラウドベースの仮想アプリケーション開発とテストソリューションスイートを開発しています。この記事では、エレクトロビットの製品ポートフォリオの特長とエレクトロビットとAWSサービスの統合について説明しました。クラウドネイティブな開発および全ての広く使用されている車載ソフトウエアスタックコンポーネントのためのテストソリューションを提供することで、エレクトロビットは自動車メーカーの「Code to the Road」の加速を支援する独自の地位を確立しています。エレクトロビットは、このクラウドベースのシフトレフト開発テストソリューションによって、開発とテストが並行して実行できるように、世界中に分散する何千人もの開発とテストに関わる人たちをサポートします。
エレクトロビット のEB corbos 製品についての詳細はこちらからお読みいただけます。
AWSが、どのようにソフトウエアインフラストラクチャのコスト削減実現するかについてはこちら のハンズオンワークショップをご覧ください。
著者バイオグラフィー:
Sorin Zamfir は、エレクトロビットのプロダクトマネージャーとして、複数のチームと協力し、自動車業界におけるクラウド開発ワークフローの実現に取り組んでいます。約9年前、ルーマニアの中心都市ブラショフで自動車業界でのキャリアをスタートさせたSorinは、インフォテインメントからOTA製品まで、さまざまなプロジェクトに携わってきました。余暇には読書、美食、旅行を楽しんでいます。
Dylan Dawsonは、エレクトロビットアメリカのパートナーマネジメントチーフでありAWSアライアンスリーダーです。 ワシントン州シアトルに在席し、10年以上にわたる技術およびビジネスデベロップメントの経験を生かして、エレクトロビットのパートナーシップエコシステムの成長を支えています。 Dylanはモビリティの未来に情熱を燃やし、自動車業界において戦略的で成果重視の関係を築くことに力を尽くしています。 仕事以外の時間にはアウトドアを楽しみ、地元のレコードショップを訪れます。
Srini RaghavanはAmazon Web Serviceのパートナーソリューションアーキテクトです。AWSの自動車業界における多くのパートナーの成功と成長の責任者であり、戦略的パートナーがAWSクラウドのパワーを活用し、相互に革新的なソリューションの構築、販促、販売を支援しています。業務外では、はランニングとクリケット(スポーツ)を楽しんでいます。
Sandeep Shahは、グローバル企業との協働を通じて、変革を定義し、その指導に取り組んでいます。Sandeepは、エグゼクティブビジョニングセッションや「アートオブザポッシブル」ワークショップの開催を通じて変革をリードしています。またテクノロジーロードマップの作成を通じてビジネス目標を設定し、グローバルに運営されるクラウドセンターオブエクセレンスの戦略と実装を定義しています。AWS以外では、サンディープはサッカーを愛し、ユースレクリエーションでコーチを務めています。